
磁気カードとは?ICカードとの違いや仕組み・種類・市場動向を解説
- 2025.05.30

磁気カードは日常生活やビジネスで広く使われていますが、その仕組みや特徴を正しく理解していますか?本記事では、磁気カードの基本的な仕組みや情報記録方式、種類と特徴から製造工程まで、詳しく解説します。データ容量やセキュリティ面での比較も行い、用途に応じた最適なカード選びのポイントも紹介。カード関連のビジネスに携わる方や、システム導入を検討している企業担当者の方にとって役立つ情報をお届けします。
磁気カードとは
磁気カードとは、カード表面や裏面に黒い帯状の磁気ストライプを持つカードです。クレジットカード、キャッシュカード、会員カード、ホテルのルームキーなど、日常生活のさまざまな場面で利用されています。
1960年代に実用化されて以来、カード決済や個人認証の主要技術として使われてきました。近年はICカードが普及していますが、コストの低さから磁気カードは今でも広く活用されています。
磁気カードの仕組みと情報記録方式
磁気カードは、カードの磁気ストライプや全面磁気層に情報を記録します。この磁気層には鉄などの微細な粉末(磁性体)が塗布されており、電磁石によって磁化の向きを変えることで情報を記録します。
具体的には、磁石のS極とN極の向きの違いを利用して「0」と「1」のデジタルデータを表現します。S極とN極の並びが「0」、N極とS極の並びが「1」となり、これらの組み合わせで英数字などを表します。主な記録方式は「F2F方式」で、カードを専用リーダーに通すと磁気ヘッドが磁化パターンを読み取り、電気信号に変換して情報を取得します。
磁気カードのデータ容量と記録できる情報量
磁気カードのデータ容量は、規格によって決まっています。日本で流通している磁気カードの多くは国内独自の規格であるJIS2規格を採用しており、データ容量は72バイトです。この容量で最大69文字の英数字を記録できます。
一方、ICカードは1000バイト以上の容量を持ち、磁気カードと比較すると桁違いに多くの情報を記録できます。このような容量の制限があるものの、磁気カードは会員番号や識別コードなど、比較的少ないデータ量で管理できるシステムでは今でも十分に活用されています。
実際、ICカードを使用している場所でも、全容量を使い切っていないケースが多いのが現状です。
磁気カードの主な用途と活用シーン
磁気カードは現在も多くの場面で活躍しています。最も身近な例として、銀行のキャッシュカードやクレジットカードをはじめ、ホテルのルームキーやポイントカードでも広く使用されています。また、病院の診察券や企業の社員証、アミューズメント施設の利用カードなども磁気カード方式を採用しているケースが多いです。
これらの用途では、識別番号や名前、基本的な個人情報程度の記録で十分機能するため、データ容量が少なくても実用的に使用できています。特に導入コストの低さから、中小規模の店舗やサービスでも気軽に採用できる点がポイントとなっています。
磁気カードの市場動向
世界のカードリーダー市場は、2023年から2030年にかけて年平均成長率4.1%で拡大すると予測されています。主要産業としては、金融サービス、ホスピタリティ、ヘルスケアなどで、キャッシュレス決済の需要増加が成長の主な要因となっています。
最近の市場トレンドとしては、バイオメトリック機能(生体認証)の統合、デュアルインターフェイステクノロジーの開発、セキュリティ強化が挙げられます。また、IoTやクラウドベースのソリューション導入によるリアルタイムデータ分析なども進められています。さらに、環境意識の高まりから、リサイクル素材や省エネ設計などサステナブルな製品開発も新たな市場テーマとなっています。
磁気カードの種類と特徴
磁気カードは、構造の違いによって、「磁気ストライプカード」と「全面磁気カード」の2種類に大別されます。また、保磁力の強さによって「Lo-Coカード」と「Hi-Coカード」にも分けられます。
これらの種類はそれぞれ異なる特徴を持っており、要求される耐久性やコスト、使用環境に応じて選択されています。例えば、クレジットカードには磁気ストライプ型が、プリペイドカードには全面磁気型が多く採用されています。
磁気ストライプカード
磁気ストライプカードは、カードの上部に帯状の磁気テープが貼り付けられているタイプです。この磁気ストライプは一般的に黒色ですが、カードデザインに合わせてシルバーやゴールド、紺などの色が使用されることもあります。
使用時は、専用の端末に磁気ストライプ部分をスライドさせることでデータを読み取ります。キャッシュカード、クレジットカード、病院の診察券、ホテルのルームキーなど幅広い用途で使われていますが、簡単には折れない構造になっているため、長期間の使用や頻繁な読み取りにも耐えられる耐久性を備えています。
全面磁気カード
全面磁気カードは、カードの裏面全体が磁性体で覆われているタイプの磁気カードです。今はあまり見かけなくなりましたが、テレホンカードをはじめ、QUOカード、ポイントカード、プリペイドカードなどで広く採用されています。
構造的な特徴として、磁気ストライプカードと比較して薄く作られており、比較的簡単に曲がる柔軟性を持っています。データの読み取りや書き込みは、専用の端末にカード全体を挿入して行われます。
Lo-CoカードとHi-Coカードの違い
JISⅡの磁気カードは、保磁力(磁気の強さ)によって、「Lo-Co(Low Coercivity:低保磁力)」と「Hi-Co(High Coercivity:高保磁力)」の2種類に分けられます。Lo-Coカードは約650 Oe(エルステッド)の低い保磁力を持ち、磁気の影響を受けやすいタイプです。スマホケースやバッグの留め具などの日常的な磁気でもデータが消えるリスクがあります。
一方、Hi-Coカードは約2750 Oeの高い保磁力を持ち、外部の磁気影響を受けにくく、長期間データを保持できます。Lo-Coカードは製造コストが低く、会員カードやポイントカードなど短期間の利用に適しています。Hi-Coカードはやや高価ですが、銀行通帳、社員証、クレジットカードなど頻繁に利用され長期間使うカードに最適です。
磁気カードは650Oe(エルステッド)の磁気テープを採用されるケースがほとんどですが、近年はスマホケースに磁気カードを入れるシーンも増えてきたことにより、2750Oe(エルステッド)の磁気テープを選択されるケースも多くなってきました。なお、読み書きする専用端末によって、対応している磁気テープの保磁力が左右されるため注意が必要です。
ICカードと磁気カードの違い
ICカードと磁気カードは、情報の記録方式が根本的に異なります。ICカードはチップ内のメモリに暗号化してデータを保存する一方、磁気カードは磁気ストライプに磁気の向きでデータを記録します。それぞれに長所と短所があり、どちらが優れているというわけではありません。データ容量や読み取り方式、導入コストなど、主要な項目を以下の表にまとめました。
比較項目 | ICカード | 磁気カード |
---|---|---|
データ容量 | 多い (1000バイト以上) | 少ない (72バイト) |
エンコード難易度 | 高い | 低い |
セキュリティ性 | 中~高 | 低~中 |
ユーザビリティ | 高い | 低い |
情報記録方式 | ICチップに暗号化して記録 | 磁気テープに情報をそのまま記録 |
読み取り方法 | 接触型:挿入 非接触型:かざす | スライドさせる |
導入コスト | 高い | 低い |
システム導入 | 専用端末、知識が必要 | 簡単に導入可能(専用端末は必要) |
耐久性 | 比較的高い | 磁力に弱い |
主な用途例 | 交通系カード、キャッシュカード、社員証など | クレジットカード、会員カード、ポイントカード、診察券など |
ICカードはデータ容量が大きく、セキュリティが高いという利点がある一方、磁気カードはコストが低く、システム導入が容易という特徴があります。両者は用途や必要とされる安全性、コスト面などを考慮して使い分けられています。
データ記録方式の違いとセキュリティ性能
磁気カードとICカードでは、情報の記録方式に大きな違いがあります。磁気カードは磁気テープにカード情報をそのまま記録しますが、ICカードの場合はICチップ内のメモリに暗号化された状態でデータを記録します。この違いがセキュリティ性能に直結しており、ICカードのセキュリティレベルは「中~高」、磁気カードは「低~中」と
具体的には、磁気カードは磁気ストライプをコピーして偽造カードが作られるスキミングと呼ばれる犯罪が問題となっていました。一方、ICカードはICチップ内の情報に高度な暗号化処理や認証機能を施しているため、コピーすることが非常に困難です。このセキュリティ性の違いから、近年では高いセキュリティが求められる用途ではICカードが主流になっています。
読み取り方法や使用感の違い
磁気カードとICカードでは、読み取り方法に大きな違いがあります。磁気カードはカードリーダーに「スライド」させて読み取るのに対し、ICカードは接触型と非接触型の2種類があります。
接触型ICカードは端末の接触端子に「挿入」して読み取り、非接触型ICカードはリーダーに「かざす」だけで読み取りが可能です。非接触型ICカードには交通系乗車用ICカードなどがあり、カード内部のアンテナと読み取り機のアンテナ間で電磁波を利用して情報をやり取りします。
ユーザビリティの面では、非接触型ICカードが最も使いやすいでしょう。磁気カードはスライドの速度や角度によって読み取りエラーが発生しやすく、頻繁に使用することで磁気ストライプが劣化するという欠点があります。
コストとシステム導入の観点による比較
磁気カードとICカードを比較すると、コスト面では磁気カードに明確な優位性があります。磁気カードは、本体価格がICカードの半分以下になることもあり、大量発行が必要な場合に特に有利です。
また、システム導入の観点からも磁気カードは優れています。磁気カードは複雑なシステム設定が不要で、専用の端末を設置するだけで簡単に利用できます。
一方、ICカードの運用には専用端末だけでなく、セキュリティ設定や暗号化などの技術的知識も必要となります。ICカードシステムの導入コストは磁気カードよりも高額になるため、中小規模の店舗やサービス、短期間のイベントなどでは、手軽さとコスト効率の良さから磁気カードが選ばれることが多いのが現状です。
磁気カードの規格と国際標準
磁気カードは世界中で広く利用されていますが、その規格は国や地域によって異なります。現在の主な規格は、国際標準のJIS1(ISO規格に準拠)と日本独自のJIS2に大別されます。
この規格の違いは、カードの互換性や利用環境に大きく影響しており、国際的に流通するカードでは両規格を併用するケースも少なくありません。各国の決済システムや既存インフラとの整合性を考慮して規格が選ばれているため、完全な統一は難しいものの、グローバル化に伴い国際標準への移行が徐々に進んでいます。
日本独自の規格JIS2と国際規格JIS1の違い
世界中のクレジットカードやデビットカードでは、ISO規格と同等の国際規格であるJIS1が採用されています。この規格は、カード裏面に磁気ストライプが配置され、複数のトラック(1〜3)で構成されています。
規格 | 文字数制限 |
---|---|
JIS1 トラック1(IATA) | 79文字(英数字) |
JIS1 トラック2(ABA) | 40文字(数字のみ) |
JIS1 トラック3(TTS) | 107文字(数字のみ) |
JIS2(日本独自の規格) | 72文字(英数字) |
JIS1のトラック1は最大79文字の英数字、トラック2は40文字の数字のみ、トラック3は107文字の数字のみを記録できます。主にアメリカやヨーロッパなど海外で広く流通しています。
一方、日本独自の規格であるJIS2は、国内のキャッシュカードや会員カードなどで使用されています。最大の特徴は磁気ストライプがカードの表面に配置されている点です。JIS2は72文字の英数字を記録でき、独自の情報管理に適しています。日本の金融機関をはじめとした多くのシステムで利用されており、国内向けのクレジットカードにおいては表面にJIS2、裏面にJIS1の両方を搭載しています。
磁気ストライプの位置と規格による違い
磁気カード上の磁気ストライプの位置は、規格によって明確に定められています。日本独自の規格JIS2では、カードの表面に磁気ストライプが配置され、その位置はカード上端から6.4mm以下、ストライプの高さは11.6mm以上と厳密に規定されています。
一方、国際規格JIS1では磁気ストライプはカードの裏面に配置されます。この位置の違いは、カードリーダーの設計や互換性に直接影響し、日本国内と海外では異なる読取機器が必要になることがあります。
また、一部のキャッシュカードやクレジットカードでは、デザイン性を高めるために見た目上は規定位置に磁気ストライプがないように見えても、実際には特殊な「隠蔽印刷」技術で磁気ストライプの上から印刷を重ねて隠している場合があります。これにより、カードの美観を保ちながらも機能性を確保しています。
参考:磁気隠蔽カード
磁気カード制作の基本的な工程
磁気カード制作の一般的な工程は以下のとおり、7つの工程を経て出荷されます。
<磁気カード制作の工程>
- デザインデータ作成
- 製版・刷版
- 印刷
- ラミネート(磁気シート貼り付け)
- 型抜き
- 検査
- 梱包・出荷
特に、磁気テープ貼付では均一な塗膜形成が重要で、1ミクロン以下の精度が要求されることもあります。また、印刷では基材にインクを密着させるためUVインキを使用し、瞬時に乾燥皮膜を形成します。
シルクパネル加工、箔押し加工、エンボス加工など目的に応じたオプション加工も可能ですが、納期が1日~数日延びる点に注意が必要です。
カードの納期や製造工程、また磁気カードの詳細については、以下の関連記事をご覧ください。
参考:プラスチックカードの納期と製造工程
参考:磁気カード
クライアントへのヒアリングのポイント
磁気カードの制作を依頼された場合は、用途や必要機能に合わせたヒアリングが重要です。特に、規格選定(JIS1/JIS2)、磁気の種類(Lo-Co/Hi-Co)、データ容量、セキュリティ要件などの仕様をしっかり確認しましょう。主なヒアリング項目を下表にまとめました。
ヒアリング項目 | 想定される回答例 |
---|---|
目的・用途 |
|
部数 |
|
予算 | 少しでも抑えたい |
納期 | 新規オープンに合わせて必要 |
その他の要件 | 既存のシステムで顧客管理も行いたいからバーコード必須 |
製造工程には乾燥や冷却の時間が不可欠で、特に磁気隠蔽カードは通常の倍以上の時間がかかる場合もあります。エンボス加工や箔押し加工などの追加オプションの有無も確認し、約2週間の標準納期に余裕を持ったスケジュール設定が必要です。クライアントの予算と要望を踏まえた適切な提案を心がけましょう。
クライアントへのヒアリングをはじめ、カードのデザインや材質選びなど、プラスチックカードを作成するためのステップの詳細は以下の記事をご覧ください。
参考:これだけ知っていれば営業できる『プラスチックカード作成のための4つのステップ』
まとめ
本記事では、磁気カードの基本的な仕組みから規格の違い、種類、ICカードとの比較まで幅広く解説しました。磁気カードはシンプルな構造ながら多様な用途で活用され、特に低コストと導入のしやすさが大きな魅力です。一方で磁気不良やセキュリティ面での課題もあります。
JIS1とJIS2の規格の違い、Lo-CoとHi-Coの特性の違いを理解し、使用目的に合わせた適切な選択が重要です。製造には専門的な工程と時間が必要となりますが、現代のデジタル環境においても磁気カードは依然として価値ある認証・決済手段として機能しています。
カーディナルは、1967年の設立以来、カード専業メーカーとして「安心クオリティ、低コスト、スピード納品」にこだわり、お客様の多様なニーズにお応えしてきました。ポイントカード、会員カードや診察券など、磁気カードの製作に関するご相談がございましたら、ぜひカーディナルまでご連絡ください。